やりましたね! 河瀬直美監督の作品、「殯(もがり)の森」がカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しましたね。 昨夜は別の不可解なニュースによって夕刊でトップを飾れませんでしたが、10年来の一ファンとしてはこのニュースは涙物です。。 1997年には同祭で河瀬監督の"萌の朱雀"がカメラドール(新人賞)に選ばれましたが、10年ぶりの快挙! "日本の良き風景と空気"を淡々と捉えた映画という点では、河瀬監督の右に出るものはいないでしょう。 僕が河瀬監督の作品を最初に見たのが、大学1年生の頃。 当時はフランス映画にハマっていて、ヌーヴェル・ヴァーグに始まり、「憎しみ」「汚れた血」などのレオス・カラックス作品にすっかり陶酔していたのですが、ふとTSUTAYAで見つけたのが河瀬監督の「萌の朱雀(1996年作)」でした。 それ以来、「日本のオススメ映画を教えてくれ」と言われたら、必ず河瀬監督の作品を勧めるようになりました。芸者やSAMURAIを期待しているブラジル人には全く受けませんが、映画フリークなブラジル人や、SUSHIやYAKISOBAから一歩踏み出して日本文化を少々嗜んでいるブラジル人にとっては大好評なんです。 ↑「萌の朱雀」より そもそも河瀬監督の作品のどこがそんなに惹かれるのか。 "Saudade(サウダージ)"というポルトガル語を聴いたことのある人は多いと思います。 日本語ではよく"郷愁"というふうに訳されますが、本来Saudadeに該当する意味の日本語はないと言われています。 敢えて訳した感の強いポル語-ポル語辞書を開くと、 「現在や過去を含め愛情や愛着を抱いている人、あるいは事物が、自分から遠く離れ近くにいない時、永久に失われ完全に過去のものとなっている時、そうした人や事物を心に思い描いた折に心に浮かぶ、切ない・淋しい・苦い・悲しい・甘い・懐かしい・快い・楽しいなどの形容詞をはじめ、これらに類するすべての形容詞によって同時に修飾することのできる感情、心の動きを意味する」 ということで、とてもとても一つの単語には集約できない単語が"Saudade"なのです。 むしろ個人的意見としては、Saudadeは"サウダージ"として扱われるべきで、ザビエルが日本にやってきた時に、カステラやパン(ポルトガル語から日本語になった一例)と同じく"砂宇陀ー路"くらいの外来語にしてもよかったはずだと思います。それくらい響きが良くて浪漫溢れる素敵な単語なのです。 ↑「沙羅双樹」より 前置きが長くなりましたが、この"Saudade"という言葉こそ、河瀬監督の映画そのものなのではないかと思います。 河瀬監督の作品の原点は、自分の周辺で起こったことや自分が経験してきたことを私小説的にドキュメンタリー的な手法で映像化しているところにあります。特に地元の奈良県には並大抵ならぬ思い入れがあるようで、作品の題材のほとんどは河瀬監督が過ごした奈良県で、ロケ地ももちろん奈良県という徹底ぶりです。 だからこそ、河瀬監督の作品には"重み"があります。 ハンディカメラで撮られた映像はドキュメンタリーだかフィクションだか見ている者の平衡感覚を狂わせ、BGMをほとんど挿入せずに映像とそこから醸し出される自然の音と空気だけで伝えようとする手法は、逆に説得力があるというか心がひどく揺さぶられます。 ずっと東京暮らしの人にとっても、日本の田舎を知らない人にとっても、奈良の地を訪れたことのない人にとっても、映像の美しさと淡々としたストーリーに吸い込まれていくと、次第に切ないだとか悲しいだとか懐かしいというような形容詞では形容できない不思議な感情と、映像とは別のところでそれぞれの脳裏に浮かぶイメージが浮かんできます。 その感情こそがサウダージ。 そして、その状態こそが"chega de saudades"です。 ↑「火垂」より ああ、なんかまた全部見たくなってきました。 試験まではロックしておかなきゃ。。 ちなみに、上に挙げた「萌の朱雀」、「沙羅双樹」、「火垂」の他、「杣人物語」、「につつまれて」、「かたつもり」、「垂乳女-tarachime-」あたりの作品はTSUTAYAでレンタルできるはずですのでよろしければどうぞ。 河瀬直美監督オフィシャルサイトへ>>> ちなみに、今回グランプリを受賞した作品「殯(もがり)の森」は 6月23日(土)より渋谷シネマ・アンジェリカにて。 あ~、ブラジル戻ってmatar a saudadeしたいっす。。ボソッ もうとっくに溢れてるっつーのに。 でも、河瀬監督の映画を見た後は日本人で良かったなって改めて思うけどね。
by hayatao
| 2007-05-29 04:16
| 映画
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by hayatao
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