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たとえ年に1回しか見ない映画でもこれは見るべきだ
すごい映画に出会ってしまった。

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最近はドキュメントばかり見ていた自分でしたが(ここ最近ではエドワード・サイードの半生を追った"OUT OF PLACE"がオススメ)、久しぶりに見たこの”商業”映画は、想像を絶するものでした。

その映画とは『ナイロビの蜂』。DVDでようやく見ることが出来ました。
レイチェル・ワイズがこの映画でゴールデン・グローブ賞で助演女優賞をとったために一気に有名になりましたが、僕としてはこの映画の監督がブラジル人であるという理由がなければ見る機会がなかった映画でした。

監督の名はフェルナンド・メイレレス。ブラジル人映画監督としては1,2を争う超大物監督。そう、良くも悪くも”ファヴェーラ”を題材に世界を圧巻させた「シティ・オブ・ゴッド」を作った監督です。彼にとっては初の海外映画の監督です。

彼が今回手掛けた映画の舞台は、ケニアです。詳細のストーリーはオフィシャルサイトを読んでもらうとして、現実にアフリカで起きた事件を題材にしたジョン・ル・カレの同名小説が原作。庭いじりが趣味の外交官(ちなみに原題は"Constant Gardener")と、女性活動家のあいだに恋が芽生え、結婚した。2人は赴任先のナイロビに渡るが、妻が襲撃され、惨殺される。愛した妻の謎の死から、夫は妻の行動を辿っていく。なぜ妻は死ななければならなかったのか。男性の影がある。浮気をしていたのか。陰謀があるのか。
真実を知らなければならないという強烈な思いで夫は行動する。そして、妻の死の背景にある壮大な陰謀を調査していくうちに、自分がいかに妻を愛し、妻が自分をどれほど愛していたかを知る・・・
『ナイロビの蜂』オフィシャルサイトへ>>

ストーリーの中にスリービーズ(Three Bees)という架空の製薬会社が出てきますが、この名前がアイロニカルに象徴しているように、イギリス政府とケニア政府、そして民間の製薬会社の3者がアフリカの大地で上っ面は医薬品援助という慈善的な名目で3者が大金を得ている現実を描いています。脚色している面はあるでしょうが、そもそも原作者のル・カレはイギリス人で外務英連邦省に入り、MI6に所属していた人なのでこのストーリーの信憑性というか、妙に現実味が帯びてきます。
ロードショー時はアフリカを舞台にしたラブ・ストーリーのような宣伝が打たれていましたが、実際はアフリカを食い物にする者たちの傲慢さや、それゆえの重々しい衝撃的悲劇を前面に打ち出した社会派シネマの側面も強いですね。

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表向きにはブラジルとはなんら関係がありませんが、メイレレスがこの映画の監督を承諾した理由が映画を見終わった後に妙に納得してしまいました。今まで蓋をされてきた社会的現実を映像という手段でドラスティックに拡げていく、彼自身は特に明言していませんが、映画監督である彼が併せ持っているそんなジャーナリスト的視野にこの原作が合致したんでしょう。

彼の独特のカメラワークと天才的な編集は今回も健在です。それもそのはずで、シティ・オブ・ゴッドでは実際にリオ州のファベーラ(いわゆるスラム)で撮影されていましたが、今回もアフリカ最大のスラム、ケニアにあるキベラという場所で手持ちカメラで撮影されたようで、ドキュメントタッチの映像が随所に見られます。

<思ふこと>
「アフリカを見れば世界中で起こっている問題が全て見えてくる。」とはよく言われることだが、限りなく現実に近いであろうこのフィクション映画は、多くのことを語りかけてくる。
愛とは?失ってから初めて気づく本当に大切なものとは?権力とは?資本主義とは?援助とは?アフリカとは?北と南とは?・・・一度に多くの質問を投げかけられた気分だ。

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今、僕がいる事務所ではケニア近くの某国で学校建設プロジェクトが進行中で、年始から調査員が派遣されている。僕はまだ下っ端なので図面を描くことによって想いを馳せているが、アフリカや物資援助の現場と接点があることを考えると、決して他人事ではない。いや、むしろ数年後には現実にそのような現場に行く業務に就く。

つい昨夜のニュースでカンボジアで狼少年ならぬ、19年間行方不明だった女の子が森から発見されたというニュースを読んだ。19年間も森の中にいると野生化して、かがんで歩く姿勢がサルのように変わっており、骨と皮しかない。目はトラのように赤いという。
世間はユビキタス化の反面、24時間衛星で監視され、街に行けばビデオカメラで監視され、全てが見えない光でつながっており、予定調和的に管理されつつある昨今。こんな話は奇跡中の奇跡。0%に近い。
現実を見ると、かつてレヴィ・ストロースが「悲しき熱帯」の中で取り上げたアマゾン奥地のナンビクワラ族は、今では洋服を着て週末にはショッピングセンターに行き、収入を得るために民族衣装を着て未開の民族を演じている。生きていくための有効な手段なのだ。

資本主義が成熟したこの世の中、支援・援助の場にも当然のごとく、大量のお金が行き来するし、不正も未だにまかり通っている。過去のように慈善的主義や人道主義だけではもうどうにもならない。結局、支援・援助分野でも資本主義社会の中でちゃんとアイデアを出せてマネジメントできて利益を出せる人が必要とされているんだよな。とは言っても、スリービーズのような製薬会社は短絡的過ぎて肩を持つ気はないけど。人の道を外れちゃいかんよやっぱり。スラムという予定調和では図れない世界に、いきなり物を押し付けても効果はないんだ。

・・・そんなことを再認識させられました。

メイレレスはこの映画に関してこう言っています。
「いくつかの独特な思い出のせいで、アフリカは僕の中に生き続けることだろう。そこには驚くべき景観とわれわれを温かく迎え入れてくれた人々がいる。とても美しい場所だ。しかし、僕はこの大陸が持つ問題を忘れることが出来ない。それは僕の想像より遥かに大きなものだった。イギリス人は国が貧しいからだという。それも一つ。だが僕のようなブラジル人はこう言うだろう。"何かほかに原因がある"と。彼らの未来はどうなるのか?未来への希望を持つのは難しい。だがわれわれは待たねばならないんだ。」


タラタラ書いてきましたが、何はともあれ、これは睡眠時間を削ってでも見るべき映画であることはたしかです。今年一発目のオススメ。
by hayatao | 2007-01-20 09:23 | 映画
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「すべての道はブラジルに通ず」リオ育ちの日本人による徒然日記。ブラジルの建築・デザイン・サッカー関連のことが中心です。建築設計事務所での修行を終え08年12月よりサンパウロ勤務。カステラ工房主宰。
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